日本障がい者乗馬協会の概要を紹介、障がい者乗馬の方法と効果を解説。パラリンピック情報。

効果

身体的効果

全般的に言える効果

障害者が乗馬をすることによって得る効果は、第一に障害の種類や程度がどうであるか、第二にどのような方法で乗るか、によって違ってきます。一口に「障害者乗馬」と言っても、医学的な治療の手段として馬を利用する場合や、純粋に楽しむためのスポーツなど手法は多種多様にあるのです。

それでも全般にわたって共通する効果としては、主に次のようなことがあげられます。

 全体的な健康の増進
 循環系機能の向上
 消化器や排泄など他機能への適度な刺激
 脊髄の支持
 平衡感覚の発達
 筋力および運動機能の発達
 頭部と躯幹の統制

体に障害があることを理由に、馬に乗ることをためらってしまう人もいることでしょう。ですが現在では様々な障害に合った器具が考案され、馬具の改良や工夫も進んでいます。またインストラクターの指導方法やレッスンカリキュラムも、かなり研究されたものになってきています。そのようにして、障害を克服して乗馬を楽しんでいる人が、実際に数多くいるのです。

機能障がいに対する効果

知覚障害を持っている人にとって、馬は自分を補ってくれるパートナーとなってくれます。例えば道路を近づいてくるトラックの轟音や犬の吠える声が聞こえない聴覚障害者のことを考えてみましょう。馬はそれらの音を聞いて、頭や首を上げたり、筋肉を緊張させたり、耳を音の方に向けるなどの反応を示します。馬の、体を使ったさまざまな仕草は、同時に騎乗者に注意をうながす合図でもあります。もちろん耳の不自由な騎乗者には、事前にそれら馬の合図の意味を教えておく必要があります。一度それを憶えてしまえば、騎乗者は馬から送られる情報を頼りに行動することができるようになるものです。

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筋肉運動の整合や平衡感覚が向上するので、障害を軽減し克服するための治療効果が期待できます。また馬の動きに合わせて自ずと腰が上下左右に動き、脊髄にほどよい刺激が与えられる。また人間の平熱よりやや高い馬の体温は、騎乗者の緊張を和らげ、血行を促進する効果もあります。
ただし治療としての乗馬を行う上で注意すべきは、その障害が急性疾患か慢性障害かという点です。急性疾患は自己抑制的な事象で、一定期間の訓練や治療を経て快復が見込まれます。症状が現われなくなれば、以前の生活や成長状態に戻ることができます。一方、慢性疾患は延々と続きます。その人は、以前の生活や成長状態に戻る可能性はほとんどなく、障害を持ちながら、できる範囲で生活し発育する努力をしなければなりません。そのため慢性的な障害は、適切な治療と、障害を軽減するための助けを借りる必要があります。障害を軽減し克服するという二つの目的が同時に果たされれば、文句ありません。そして乗馬も、そのための手段の一つです。

医学的効果は他にも挙げることができます。騎乗者(患者)は馬の動きに影響を受ける。馬の動きが、乗っている患者の体に姿勢・平衡感覚・移動感覚・各部の機能を向上させるのです。騎乗時に受けるフィード・バックの影響は絶大です。右の手綱を引けば右に曲り、両方の手綱を引けば停止する。何もしなければ、何も起こらない。一つの行為が一つの反応をもたらします。こうした反応を経験することによって、乗り手は乗馬を学ぶだけでなく、身体的・精神的にも満足感を覚えるものです。自分の指示に反応する馬とのコミュニケーションは、言葉で反応する人間とのコミュニケーションより容易な場合もあり得るということです。
言ってみれば、馬自身もセラピスト(療法士)なのです。馬は、障害者乗馬の最も重要な部分を担っており、それは、期せずして乗り手を刺激するということにつきます。障害者乗馬を行うインストラクター、理学療法士、ヘルパーらの手助けによって、この刺激を理想的なものにすることが可能です。いつ介助し、いつ介助しないかを見きわめるのが難しい場合もありますが、障害者が介助なしでもなんとかやれる状況では、できるだけ手を貸さないことです。乗り手ができないことではなく、できることに目を向ける必要があります。

p12a 筋力アップ率


大きくてなだらかな馬の動きに合わせて漫然と鞍に座っているだけで、知らぬ間に筋肉が強化されます。全身の筋肉がまんべんなく強化されますが、特に下半身に顕著です。また、障害のある部分の周囲の筋力が鍛えられます。乗馬によって失った機能を回復することもありますが、それは障害の種類や程度にもよることでしょう。誰もが間違いなく得られる効果は、障害を補う部分の筋力がアップすることです。左図は1回15分間の乗馬(常歩~速歩)を週3回×1カ月半行った人の、計測前後の最大筋力のアップ率

p12b 筋電ピーク値


人間が何らかの動きをすると、体内では『筋放電』という現象が起こっています。これを概説すれば、動きが強ければ強いほど、速ければ速いほど、大きければ大きいほど、放電量が増すことになります。騎乗者が意図的に動かなくても、馬の背中が、各部位にこれだけの運動(負荷)をもたらしているのです。特に体幹と下肢の筋肉に筋放電が顕著です。左図は1回15分間の乗馬(速歩)をした人の、騎乗中の筋放電量の最大値

p12c 敏捷性と歩幅のアップ


上記のように筋力が強化された結果、運動能力が向上します。例えば「3メートル先を回って戻って来る」という歩行テストを行った場合、それに要する時間は11%短縮され、その時の歩幅は6%伸びました。左図は1回15分間の乗馬(常歩~速歩)を週3回×1カ月半行った人の、計測前後の歩行能力

p12d 股関節の屈曲と伸展


たった1度の試乗によって、右図のように股関節の屈曲、伸展とも可動域が増加しました。乗馬の効果として語られることは少ないですが、最も顕著な効果として注目に値します。左図は1回15分間の乗馬(常歩)をした人の、計測前後の股関節可動域

p12e 平衡感覚の向上


前後・上下・左右へ不規則に揺れる馬上に座ることで平衡感覚は格段に向上します。姿勢維持筋群(腹筋、背筋、下肢筋群)の筋力が強化され、調整力が養われるからです。左図は、目を開けたまま1分間直立したときの重心動揺を測定したものです。被験者の50代女性は、当初紫色の範囲で揺れていたものが、乗馬をするようになって赤色の範囲まで揺れが狭まりました。青線は参考までに平均的な50代女性のサンプルを示したもの。左図は1回15分間の乗馬(常歩~速歩)を週2回×6カ月行った人の、1分間直立した(両足を閉じて目を開けた状態)ときの重心動揺

p12f 姿勢の改善


筋力が強化され、運動能力が発達し、平衡感覚が向上した結果の総合的な効果として、適正な姿勢が身に付きます。これは、まさしく乗馬ならではの効果と言えるかもしれません。具体的には臀部の凸量が増加し(サンプルA、Bとも)、腰椎の前腕が無い人や前腕が小さい人に前腕が形成されます(サンプルB)。左図は1回15分間の乗馬(常歩~速歩)を週3回×1カ月半行った人の、計測前後の脊柱形状

p12g メッツ値(負担)の少なさ


筋力や運動能力の向上はどんなスポーツでも得られる効果です。しかし乗馬の特筆すべきは、そうした効果が緩やかな運動の中で得られることです。左図にあるメッツ値とは、運動によるエネルギー消費量が、安静時の代謝の何倍に当たるかを示す単位です。乗馬は、安静時の1.2倍のMETS値にすぎません。歩くのでさえ3倍もあるのに、です。最小の運動で最大の効果が得られることを利用して、障害者や高齢者が継続して効果的に療法を施すことができるのです。左図は1回15分間の乗馬(速歩)を行った人のMETS値

以上のデータは松下電工(株)のフィットネス健康機器『ジョーバ』のカタログを参考にさせていただきました

精神的効果

知的障がいに対する効果

障害者乗馬の最良の特徴は、馬を相手に、青空の下で実践できることに尽きるでしょう。訓練室や養護教室で行っているような訓練を、解放感のある環境で行えるのです。場合によっては継続的な訓練以上に目覚ましい効果をあげ、知的障害や情緒障害を持った子供の療育の手段ともなり得ます。
こうした運動について、ドイツのアントニウス・クローガー博士が厳密に検証しています。彼はこの問題に関する多くの論文の中で、次のような効果を述べています。

1)不安を軽減する
2)多動を軽減する
3)信頼の度合いを高める
4)自己評価能力を高める
5)自尊心を育む
6)知覚・運動能力を向上させる
7)対人関係のコツをおぼえる
8)攻撃傾向が減少する
9)嫌悪感や恐怖心を減少させる
10)積極的な社会性を発達させる

自閉症の子供にとって、馬は最良のパートナーとなり得ます。よく訓練された馬は決して人間を拒絶しませんし、正しい合図を与えれば常に一定の反応を示してくれます。からかうことも、叱ることもしません。そのため他人や社会に対して心を閉ざしてしまう子供でも、馬に対しては心を開き自発的な行動をとるようになるという事例は数多くあります。

感覚的統合

身の回りの情報は感覚システムを通して受け取られます。視覚・聴覚・味覚・嗅覚の他に、触感覚、前庭感覚、固有感覚なども感知しており、これらは人間の発達においてとても重要な役割を担っています。
人は、前庭感覚によって自分の動きを知ることができます。固有感覚によって自分の姿勢をとらえることができます。触感覚は、触れたことや痛み・温度・圧迫などの情報に関わっていきます。これらの感覚が複雑にからみあっているおかげで、人は身の回りの状況を正確に判断し、適切な行動をとることができるのです。

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障害を持っている人のなかには、多動で無目的に動き回ったり、逆にほとんど動かなかったり、人と触れ合うことを嫌がったりなどということがあります。自分の身体イメージが獲得されていないために、調和のとれた運動をしたり、相手や相手との位置関係を知ったりすることが難しいのです。
これらの能力を高めるためには、多様で適切な刺激を得られるような運動をすることが必要です。乗馬はこの条件を十分に満たしています。馬の動きを体全体で感じ取ったり、馬の感触や体温を味わったり、自然に移り変わる景色を受け止めたりすることは、日常生活ではなかなか得ることができない良質な刺激です。それが訓練や学習というかたちではなく、楽しみながら行えることが乗馬の最大の利点と言えるでしょう。

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