日本障がい者乗馬協会の概要を紹介、障がい者乗馬の方法と効果を解説。パラリンピック情報。

馬具について

特殊馬具

騎乗者の障害によっては、一般的的に使用されている馬具では不自由だったり不十分な場合があります。それらを補うために改良・考案されたものが『特殊馬具』です。特殊馬具はインストラクターや理学療法士が必要だと考えた場合に使用します。
日本では市販のものはほとんど無いので、身近にあるものを利用して作成せざるをえません。実際、世界の障害者乗馬はいまだ“発展途上”にあり、いずこも工夫や改良を凝らしているという現状です。騎乗者の状態に応じて創意工夫することです。ただし、いかなる場合でも守らなければならない最低条件があります。中特殊馬具を使用する場合に、気をつけなければいけない点を以下に列挙します。

1:騎乗者を馬や鞍に縛り付けるような馬具は使用しない
万が一、馬が転倒した際、騎乗者がその馬の下敷きになるのを防ぐためです。あるいは騎乗者が落馬しかかったり、鞍が回ってしまった場合に、引きずられる事故を防ぐためです。
たとえポニーといえども、その体重は200kgを超える場合もありますし、成馬ともなれば馬体重は400~500kg以上もあります。突発的な事象に対処するにはすばやく行動しなければなりません。馬や鞍から騎乗者を離すのに時間をかかるのでは、大きな事故につながります。
また、馬は汗をかくと、体を地面にこすりつけて砂浴びをします。めったにないことですが、騎乗者を乗せたまま砂浴びをする場合もあります。

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2:安全を第一に考える
あってはならないことですが、突発的な事故は起こりうるのだということを忘れてはいけません。予測可能なかぎり多岐にわたって考慮しておく必要があります。安全を脅かす要因は、例えば次のようなことです。
・突起物。ウエスタン鞍のホーンなど
・騎乗者やヘルパーが身につけたアクセサリー
・不安定で弱い騎乗台
・車椅子や装具に対する馴致を行っていない馬
・馬に不慣れなヘルパー
馬具を製作した場合、その強度についても注意を払うべきです。頼りにしている馬具がいきなりポロリととれてしまったら、騎乗者は不意をつかれてバランスを崩してしまうからです。

3:馬が恐がったり、ケガをしそうなものを使わない
言うまでもなく馬は大切なパートナーですから、尖った部分が馬に当たらないように気をつける必要があります。馬が怪我をするだけでなく、馬具をつけること自体を嫌がるようになってしまいます。どのような馬具にしても、初めて着ける馬具に対して、馬は多少なりとも警戒心を抱くものです。明らかに馬が怯えているにも関わらず、無理やりに着けてしまうと、それから逃れようとして暴れてしまうことがあります。そして、その馬具を嫌い、視界に入っただけでパニックを起こすかもしれません。
馬は記憶力の大変優れた動物で、特に怖かったものに対しては非常によく覚えてしまいます。1度怖い思いをすると、再び納得して着けさせるまでには長い時間がかかるものです。ですから、細心の注意を払いながら慎重に馴致させなければなりません。
馬具が馬に刺激を加える形状や材質であれば、跳ねたり、駆け回ったりします。特殊馬具を試す場合は、まず誰も騎乗していない状態で馬具を装着し、様子をみるのが良いでしょう。大丈夫そうであれば、次にインストラクターが試し、体重や力がかかった状態での馬の反応を観察します。こうして安全が確認されて初めて、障害者のレッスンに用いるべきです。

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4:騎乗者が快適に騎乗できるものを選ぶ
特殊馬具によって技術の向上を図るのはもちろんですが、それ以前に、騎乗者が快適になることが最も大切なことです。例えば、曲がりにくい足を無理矢理に曲げるといった馬具は使用するべきでありません。騎乗者の身体機能の限界については、理学療法士・医師等にアドバイスをもらうと良いでしょう。

鞍の工夫

一般に市販されている鞍
ウエスタン鞍

馬の上で1日中生活してしまうカウボーイたちが考案した鞍は「居住性」に優れているというか、騎乗者にあまり負担がかからないように作られています。まずシートが広くて深いため、騎乗者は心地良い安定感を持って座えうことができ、馬が動きだしてもなおバランスを保ちやすいことでしょう。鞍の面積の大きさは、馬の揺れも平均化してしまうので、「細かく強い揺れ」はウエスタン鞍を通して「大きくなだらかな揺れ」に変化して騎乗者に伝わります。
さらに特筆すべきは前橋に突き出たホーン(突起)で、これにつかまってさえいれば馬の動きが多少変化しても安定して鞍に座っていることができます。つかまる物があるということで、精神的にも安心できます。
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軽乗鞍

軽乗鞍の良さは、馬のぬくもりをじかに感じることができ、馬との一体感を得られることにあります。軽乗鞍の上部についた2つの“取っ手”を握りながら、子供たちはまるで乗り慣れた自転車(三輪車)にでもまたがるように、違和感をおぼえず気軽に馬に乗ることができます。
手綱を持てないので自ら馬を操ることはできませんが、引き馬や調馬索運動をしながら、馬上体操や馬への飛び乗り・飛び降りなどの運動をして、本当の意味で「馬と戯れる」ことができます。
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横鞍(サイドサドル)

股関節脱臼や下半身に麻痺があるなどして思うように股を開けない騎乗者に有効です。一般に想像されている以上に安定感があり、バランスをとるのもさほど難しくはありません。股関節への負担はきわめて小さく、下半身に全く力が入らない人でも、乗りこなすことは可能です。
ただし馬に対してはそれなりの調教が必要です。騎乗者の重心が片側に寄ってしまいがちなので、そういう状態でなお適切に動く術を憶えさせなければなりません。また脚による扶助も通常と違います。
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特別に改良された鞍
鞍ベルト

鞍の前橋に付けることのできる安全ベルトは、障害者が乗馬をする際にも極めて有効です。腕の長さに問題がある場合は、単純にこのベルトを長くするのではなく、左右のあおり革のあたりから長く伸ばしてやると安定度が増します。
写真はドイツのハンス。鞍の後橋から左右に伸びたベルトを後橋にかける仕組みです。騎乗者の体を馬体や鞍に縛り付けるのはきわめて危険ですが、ハンスの場合は両脚とも腰から下が無いため、すぐに脱け出ることができます。モモより先が無い騎乗者にのみ有用です。
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ソケット鞍

同じくドイツのアンジェリカの鞍。モモの途中まである両脚を、ベルトで留めるのではなく、袋の中にすっぽり入れる方法。馬の反動で騎乗者の体が馬体から離れるのを抑制するために、袋の口はやや強目に圧迫されるように工夫されています。
アンジェリカはこの鞍でアトランタパラリンピック(1996)やデンマーク世界選手権(1999)で銀メダルを獲得。ドイツ国内の健常者の大会でも幾多の栄冠を手にしています。
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安全鞍

あるイタリア人が使っていた鞍。前橋に取り付けた頑丈そうな取っ手が特徴です。この騎乗者の場合は馬上で上半身を直立しきれないので、さらに体の前後をはさむような形で“壁”が作ってあります。壁の材質は柔らかく、騎乗者への衝撃は少なそう。写真では見れませんが、後方の壁(背もたれ)は前方ほど高くありませんでした。前方を高くしたのは、壁や取っ手にみぞおちがぶつかったりしないように、後方が低いのは極力器具による支えを軽減したいためではないでしょうか?
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松葉鞍

JRAD東北支部の北角選手が愛用している鞍。彼女は重度リウマチのため、揺れる馬上で上体を立てたまま維持することができません。それだけの筋力がなく、痛みも伴なうからです。そこで「松葉杖の上半分」の形状をした板を、鞍の両側に取り付け、それを脇にはさむようにして乗っています。板は、ウエスタン鞍のセカンドベルト(馬の腹部にまわる腹帯)の穴を利用して、ヒモで取り付けています。
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ビアンカの鞍

ドイツのエース、ビアンカはアトランタパラリンピックやベルギー世界選手権の覇者です。彼女の見事なパフォーマンスを支えているのは、前橋の左右に取り付けたリング。このリングに手綱を通すことによって腕の短さを克服し、馬にハミを受けさせることを可能たらしめています。ビアンカはループ手綱も併用しており(「手綱の工夫」を参照してください)、詰めたり伸ばしたりするためにループを持ち替える際に口を使います。こその場合も、リングがあるおかげで、手綱は常に一定の角度で保たれています。
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手綱の工夫

一般に市販されている手綱
安全手綱

安全手綱は、手綱を滑らせることなくしっかり握り続けるために効果的です。健常者もごく一般的に用いているものです。
滑り止めは、手綱の中心から左右均等に複数付いているので、両方の手綱を同じに長さにして持つ目安にもなります。
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特別に改良された手綱
ダボ手綱

特殊手綱は、主に手や握力に障害のある騎乗者に対して、手綱の操作がしやすいように改良されたものです。「ダボ」付き手綱は、握りの部分に凹凸を付けたもので、凹凸は滑りにくい素材である必要があります。写真はイギリスのズー。義手にペイントしたユニオンジャックがトレードマークです。
突起を写真のものよりさらに極端にしたものもあります。私が見たものはおよそ親指大で、木片を使っていました。衣服に引っかけたり、馬体を傷つけることがないように、木片の端をヤヤスリがけして滑らか丸めてありました。
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ループ手綱

ループ(輪)の付いた手綱は、障害者乗馬においてはとてもポピュラーです。材質は、必ずしも手綱と同じものである必要はなく、使いやすさや感触に応じて、柔らかい物、幅の広いもの、伸び縮みするものなどが使われています。写真はアイルランドのジョン。
手綱を伸ばしたり詰めたりできるように、複数のループを取り付けるとさらに便利です。手に障害があってループの持ち替えが不便な場合は、口を使ってループを持ち替えることができます。
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ホール手綱

ドイツのダニエラは、手綱を握ることができないので、手綱についた穴に手の先を通すようにして使っている。原理としてはループ手綱と同様。穴は、手綱を二重に縫い合わせて、所どころ(手を通す場所)を縫わずにおくことで作っています。
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はしご手綱

左右の手綱に繋がるヒモをはしご状に取り付けたものです。ループ手綱と同じように、手綱をしっかり握っていられない騎乗者が用います。ループ手綱に較べると、手綱を伸ばしたり詰めたりするのは容易ですが、左右に異なる扶助を与えるなど微妙な手綱さばきをしたい場合は不便です。
写真は十和田乗馬倶楽部で使用しているはしご手綱。はしごの格段に色の違うテープを巻き、インストラクターが手綱の長さを指示しやすいように工夫しています。
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捧手綱(水勒用)

片手が全くきかず、もう片方の手は普通に使える騎乗者は、捧手綱を使う場合が多いです。原理ははしご手綱と同様ですが、はしご部分を固い材質(捧)にすることで、左右の手綱を張ったり緩めたりすることが同時にできるようになるからです。
写真は、2000年シドニーパラリンピックで金メダル(グレード2:自由演技)に輝いたニコラ(イギリス)の捧手綱。自転車のハンドル部分のような流線型の捧を使って握りやすくしています。
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捧手綱(大勒用)

ベルギー人のジョスが「6年がかり」で開発したという、大勒用の捧手綱。1本の「捧」で、どうやったら4本の手綱を操るのかについて考えを巡らせ、試行錯誤を繰り返したそうです。
馬具は、なにも既成の物にこだわる必用はありません。また乗馬クラブが作るものでも、インストラクターが与える物でもないのです。最も必要性を感じているのは騎乗者本人だし、使い勝手がいちばん判るのも本人です。日本の障害者で自発的に馬具の研究や改良に励む人は、残念ながら少ないようです。6年間も、あきらめることなく改良に取り組んだジョスの熱意には、学ぶべきものが多いような気がします。ジョスは2002年国際ドレッサージ大会(ベルギー)グレード4の自由演技でみごと金メダルを獲得しました。
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鐙の工夫

一般に市販されている鐙(アブミ)
鐙カバー

騎乗者の足に力が入らない場合は、乗馬をしているうちに爪先が深く入ってしまっても、それを適正な位置に戻すことができません。足に感覚がなかったり義足を付けている騎乗者は、鐙に深く入ってしまっていることすら気付かずに乗っていて非常に危険です。鐙カバーは、騎乗者の爪先が深く入り過ぎないようにするための用具です。
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足の不自由を補う道具


鞭は脚の代わりに扶助を与えるのに有効です。鞭の使い方や馬体への当て方を変えることで、馬へ様々な合図を送ることができるのです。そのため長鞭を用いるのが一般的です。長鞭には長さや固さが様々あるので、騎乗者の使い勝手やスキルに応じたものを選ぶ必用があるでしょう。
両足とも不自由な場合は、両手に長鞭を持つという方法もあります。
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輪ゴム

騎乗者の体の一部を馬体や馬具に縛りつけることは、危険な行為なのでやってはいけません。そこで万能の役目を果たすのが輪ゴムです。輪ゴムなら、いざという時に切れてしまうので、体を縛りつけることにはなりません。
写真はデンマークのエース、ブリータの鐙。足が大きく振れないように、鐙革と腹帯が途中まで一緒にしてあります。さらに地面と水平にならない足を輪ゴムを巻いて鐙に固定しています。この他にも輪ゴムは、様々なケースの障害者が、様々な方法で利用しています。
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