Q. 乗馬をすることで動かない手や足が動くようになるのですか?
A. ヨーロッパでは病院に馬を置き、リハビリの手段として乗馬を行っているケースも珍しくありません。日本でも、例えば車椅子生活を送っていた人が、乗馬を始めてから杖で歩けるようになったというケースもあります。機能が回復する例も確かにあるのです。
しかし私たちは、障害者乗馬の効果として機能回復をことさらに強調するつもりはありません。どんなに乗馬を続けても、動かない手や足は以前のままというケースのほうが圧倒的に多いからです。しかし障害のある部分を補う筋肉、それを補足する機能が発達することなどは、共通して言える乗馬の効果だと思います。
Q. 小児マヒで体が揺れます。椅子に座っている時ですらジッとしていられないのですが乗馬はできますか?
A. 実際に見てみないと詳しい状態は判りませんが、椅子に腰掛けても体が揺れてしまうような人で乗馬を楽しんでいる人は大勢います。上半身を支えられないようなら、鞍に座るときや、乗っている際中にヘルパーを伴なえばいいと思います。体験するうちに上達していったら、少しずつヘルパーの助けを減らしていくのもいいでしょう。
Q. 近くに支部がないのですが、普通の乗馬クラブに通っても良いものでしょうか?
A. 乗馬クラブ側が貴方の障害についてきちんと理解し、緊急の場合の対策を講じる用意があるのであれば、まったく問題ないと思います。最も重要なのは、ふさわしい馬がいるか。次にヘルパー(ボランティアなど)が確保できるかどうか。そしてクラブへの行き帰り、着替えやトイレ、馬装(馬具を馬に付けること)や馬の手入れなど、事前に率直な話し合いを持つことをお勧めします。
また障害者に接したことのないスタッフは、様々な場面で(意図せず)間違った行動をとってしまうかもしれません。入会後も折につけ話し合う必要があるものです。
Q. 全盲の方が一人で乗馬されると聞きましたが、どのようにして乗っておられるのですか?進行方向は最終的に「馬まかせ」になってしまうのでしょうか?
A. コーラーという、現在地を告げるアシスタントが付けば、全盲の方でも一人で馬に乗れます。馬が信頼に足る能力と経験を備えていて、なおかつ騎手が馬を信頼することができれば、全盲というのが信じられないほど人馬一体のパフォーマンスもできるものです。
練習を積んだ騎手は正確に直進したり図形を描くことができますから、必ずしも「馬まかせ」ではありません。ただし正確なイメージをつかむためには、相応の練習と経験が必要だと思います。
Q. 私の練習馬は車椅子を恐がるので、車椅子に乗ったまま近づけません。馬に慣れてもらうにはどのようなことをすればいいのでしょう?あるいは無理に慣れさせないほうがいいのでしょうか?
A. もともと馬は臆病で警戒心の強い動物です。しかし一方では、賢くて学習能力の高い動物でもあります。地面に置いた車椅子に、静かに徐々に近づけて(馬のほうから近付くのがコツです)鼻先で触れたり匂いを嗅がせたりすることを繰り返していれば、やがて全く気にしなくなるものです。このとき、決して力ずくで接近させないこと。無理矢理やるとかえって馬の恐怖心は増幅してしまいます。
車椅子に限らず、松葉杖、義足、装具、騎乗台など、馬が驚いたり警戒しそうなものはたくさんあります。それらも根気よく繰り返して馴致させることで、たいていは慣れてくれるものです。装具などは最初に馬体に軽く触れさせ、次にやや強めに当て、それで問題なければインストラクターが装着して騎乗してみるといったように、段階を踏みながら注意深く馴致を進めていくよう心がけてください。
Q. 聴覚障害の場合に気を付けるべきことは何ですか?
A. 聴覚障害はほとんど不便を感じずに乗馬を楽しむことができます。ある程度基礎を身に付けてしまい、インストラクターからいちいち指導を仰がなくていいレベルまで達すれば、健常者と何ら変わりません。
しかしながら初級者のレベルを脱するまでは、なかなか練習がはかどらないかもしれません。インストラクターが教えるたびに馬を止めて、アドバイスや注意を伝えなければならないからです。歩様や図形などレッスン中によく使う言葉は、手話かそれに似たサインを決めて、インストラクターに憶えてもらうといいでしょう。
Q. かかりつけの医者が乗馬を始めることに難色を示しています。こっそり乗馬をしてもいいものでしょうか?
A. お勧めできません。やはりお医者さんの判断は最優先に考えるべきです。
ただ乗馬は決してポピュラーなスポーツではなく、ましてや障害者乗馬に関しては全く無知なお医者さんは多いことでしょう。いちばんいいのは乗馬をしているお医者さんの意見を聞くことです。詳しい症状を聞かせていただければ、私たちの医療関係スタッフ(PTやOT)の意見をお聞かせすることもできます。
いずれにせよ乗馬することを主治医に隠すのは間違いです。場合によってはそのお医者さんに、乗馬している様子を見学してもらい、理解と協力を仰ぎながら始めるべきです。
Q. 「乗馬をしてはいけない障害」というものはありますか?
A. 内部障害の場合は、まず医師と相談すべきです。その他の障害は、種類というより程度や症状によって、向き不向きがあると思います。ただし日常生活がかなり不便な重度障害がありながら、趣味として乗馬を楽しんでいる人もいます。やはり具体的な様子が知りたいところです。そもそも障害者乗馬とは、運動が思うようにできない人でも楽しめるスポーツです。
Q. 知的障害がある場合は、どんなレッスンをすればいいのでしょう?
A. まず本人や保護者と話しあって、どのような意向か話しあってみてください。
知的障害があっても、健常者と同様のレッスンを受けて上達していく人もいます。しかし馬体の構造や馬術の原理が理解できないのに、高度な技術指導をするレッスンを行うのはどうかと思います。動く、止まる、走る、曲がるといった基本的な動かし方を、ゲーム感覚で指導したほうが、楽しみながらスキルアップできると思います。知的障害者に限らず、子供や、競技志向ではない大人の騎手に対しても同様です。
Q. どのぐらいのレベルになったら全国大会に出場できますか?また参加するためにはどうすればいいのですか?
A. 年に一度行われる全国障害者交流乗馬大会は、誰でも参加できます。乗り方や技術によっていくつかの種目があるので、例えば引き馬で競技することもできますし、常歩だけの種目もあります。ですから乗馬を始めたばかりの人でも十分に競技が楽しめるようになっています。
もし貴方の通っている乗馬施設が日本障害者乗馬協会の支部であれば、そこに申込用紙が置いてあるはずです。支部でなくても参加できます。協会事務局にメールでお問い合せくだされば、大会の要項や申込用紙を郵送します。ぜひいちど参加してみてください。面白いですよ!
Q. 馬術競技をする場合は必ずサラブレッドのような大きな馬で行わなければならないのですか?
A. そんなことはありません。競技に足る調教をしていれば、和種馬でもポニーでも全く問題ありません。海外では、きっちり調教された中~小格馬がよく競技に出てきます。高さ、スピード、上下動などが少ないので子供や初心者にとっては親しみやすいはずです。
一般的におっとりしていて神経過敏でない和種馬は、障害者乗馬にとても向いていると思います。それより小さいポニーとなると、一般にやんちゃでインストラクターの「下乗り」が必用な場合が多いようです。
Q. 全国大会で馬場馬術に出るには、どのぐらいのレベルまで上達する必要があるのですか?
A. あなたの障害の程度によって課せられる運動(課目)が違います。大雑把に言うと常歩のみ(グレード1)、常歩と速歩(グレード2)、3種の歩様(グレード3)、3種の歩様と横運動(グレード4)の4段階に分かれています。それぞれのグレードごとに、さらにレベルの違う課目があり、大会によってどの課目を採用するか異なります。
まずは貴方がどのグレードに属するのか、クラス分け(クラシフィケーションと言います)の判定をしてもらう必用があります。
Q. クラス分けはどこで受ければいいのですか?
A. あなたの近くにクラス分けをすることができる資格者(クラシファイヤーと言います)がいれば、その方を紹介いたします。もしくは全国大会に参加すれば、同時並行でクラシフィケーションも受けられます。
Q. 障害者乗馬のインストラクターの資格を取るにはどうしたらいいですか?
A. 残念ながら日本にはまだ公認資格と言えるものがありません。今、日本障害者乗馬協会は、資格の認定とそのためのカリキュラム作りについて必要性を痛感しています。
北海道の浦河町には障害者乗馬のインストラクター専門の養成学校があります。ここは全くの初心者でも、最初から指導してくれます。あるていど乗馬ができる人は海外で資格を取得しています。取得先は主に2つあって、一つはイギリスに本部のあるRDAと、アメリカに本部のあるNARHAです。それぞれに特徴があり、カリキュラムもしっかりしています。興味があれば、それぞれの資格を取得した方をご紹介いたします。