CPEDI3★Gotemba_2

CPEDI3★GOTEMBA 2019 ~3日目~   森田佳月

 

台風19号の影響で雨が降ったりやんだりする恵まれない天候の中、静岡県・御殿場で10月17日から19日の3日間に渡って「第65回東京馬術大会 CDI★★★/CPEDI★★★GOTEMBA 2019」が実施された。この大会は年内に国内で行われる大会では最も規模の大きいもので、東京パラリンピックへの出場をかけた今年最後の戦いの場であった。

 

3日目の19日には、17日に行われた第1競技「Team Test」と2日目に行われた第3競技「Individual Test」の平均得点数が60%を超えた選手のみが出場できる第13競技「Free Style」が行われた。この第13競技は、自由演技という名がついているが、規定された演技項目・演技時間を守った上で、アレンジした演技構成で経路を踏み、自分で選曲した音楽に合わせて演技を行う。選んだ曲が馬の雰囲気や印象とあっているか、構成の難易度などが考慮されて採点が行われる。

 

グレードⅠでは鎮守美奈選手(明石乗馬協会)、グレードⅡでは吉越奏詞選手(四街道グリーンヒル乗馬クラブ)、グレードⅢで稲葉将選手(静岡乗馬クラブ)、そしてグレードⅣで高嶋選手(ドレッサージュステーブルテルイ)が、と各グレードでパラ強化指定選手が高得点で優勝を収めた。 また、稲葉選手は今大会の総合優勝も果たした。


優勝カップを手にする稲葉選手(右)

 

自由演技では、高得点65.776でグレードⅢを制した稲葉選手とその愛馬・ピエノの演技には目が惹かれた。軽やかなメロディーとともに軽快なステップで始まった稲葉選手とピエノの演技は、人馬の息がぴったりと合っており、見ている人を魅了するものであった。「自由演技は(パラリンピックの)選考自体には関係がないため、リラックスして楽しんでやろうと決めていた」。表彰式後、穏やかな笑顔でそう答えた稲葉選手。相棒・ピエノがしっぽを大きく振って落ち着いて演技を行っている姿や、稲葉選手が時々ピエノに微笑みかけている様子などがうかがえた。彼と愛馬の演技は、本人が言う通り、見ている側にも安心感を与えるような暖かみのあるパフォーマンスであった。


自由演技中の稲葉選手と愛馬・ピエノ

 

吉越選手はシンプルかつミステリアスな曲で丁寧な演技、高嶋選手はリズミカルな曲で迫力な演技を、と各選手愛馬の個性を生かした演技を行っていた。両選手ともに共通していたこと、それは演技後に力いっぱい愛馬を褒めることであった。演技を終えた後に馬を思いっきり褒める、これは共に頑張ってくれた相棒に「よくやった」と伝える行為。「馬も人間と同じように頑張った時にはきちんと褒めてあげる」。以前、高嶋選手はそう言っていた。馬と人の信頼関係があって初めて演技として成り立つパラ馬術。両選手が愛馬を褒める姿から、彼らの相棒に対する愛情が伝わってきた。

 

 

愛馬を褒める吉越選手


リズミカルな演技を行う高嶋選手と愛馬ケネディ

 

「人馬一体」を最も感じさせてくれたのが、鎮守選手と愛馬・ジアーナの演技であった。他の選手の演技を見ていた時は、人が馬を操っているように感じられたが、彼女とジアーナの演技は一味違った。ジアーナが誘導してくれるようにして鎮守選手が登場。次の演技が始まっても、ジアーナが鎮守選手をリードしている様子は変わらず、元気でエレガントな演技を行っていた彼女たちから目が離せなかった。鎮守選手が次の動きの指示を出す少し前には、すでにジアーナは次の動きへ移る準備ができていて、鎮守選手に「次の動きはきちんと把握できているよ」と伝えているように見えた。ジアーナが誘導してくれるということを信じている鎮守選手は、演技中もリラックスしているように見えた。まさに「人馬一体」の真の姿を見せてもらった。人が馬を誘導するのではなく、馬が人を誘導する馬術もある。そのようなことを鎮守選手とジアーナが教えてくれるようだった。


愛馬とともに演技を行う鎮守選手

 

各選手が人馬一体となって全力を尽くして挑んだ3日目の自由演技。パラリンピックの選考には直接関係はないものの、私たち観客に得たものがあったように、確実に選手たちにも次の大会に繋がる何かをつかんだであろう。パラリンピック選考に関わる大会は来春にも行われる。パラリンピックの代表をかけての戦いまでの残り4か月、どれだけ演技を極められるのかがカギとなってくる。